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AIで解決すべきビジネス課題を見つけるただ1つの質問

なんでもかんでもAIで解決したいこのご時勢、皆様いかがお過ごしでしょうか。日々のニュースではありとあらゆる企業がAIに注力し、データサイエンティストの採用と育成に悪戦苦闘している様子がうかがえます。

「やっぱこの時代、AIっしょ!」

うんうん。そうですよね。勢いが大事です。

「いやいや、AIよりもまずやらなきゃいけないことたくさんあるんじゃないの?!」

うんうん。冷静な意見です。AIだけが戦略じゃないですからね。

「AIなんてただのバズワードだし、役に立たん!」

ダウト。

ちょっと待ってください。AIはいいものです。AIとハサミは使いよう、なのです。使い方を間違えてはいけませんが、そもそも使い方を間違えてもいい道具など、この世にありはしないのです。

AIがここまで注目されているのは、ビジネス課題の解決に活用できるからでしょう。もしAIが研究としてはおもしろいが役に立たないものだったとしたら、こんなに話題にはなっていなかったかもしれません。AIをビジネスで適切に使いましょう。そのためには、AIで解決すべきビジネス課題を見つける必要があります。

AIとは

AI、AIと言っているけども、AIっていったいなんぞ?と思われた方もいらっしゃるでしょう。いったいAIとは何でしょうか。AIを定義することは難しいですし、個人的にはあまり生産的な行為だとは思えません。ただし、本記事では誤解を生まないように、AI(人工知能)=Machine Learning(機械学習)としておきましょう。

なるほどなるほど、機械学習ね。っておーい!!機械学習ってなんぞ?!というみなさんのノリツッコミが聞こえてきます。いい質問ですね。機械学習については後述します。

なぜビジネス課題を見つけなければならないか

ここで一度、タイトルを再確認しておきましょう。「AIで解決すべきビジネス課題を見つけるためのただ一つの質問」。なんでも切れるハサミがないように、AIで解決すべき問題とそうでない問題があります。それはそうなのですが、もっと重要な想いがこのタイトルにはこめられています。

「ビジネス課題を見つけるための」

ここです。ビジネス課題を見つけることが最も重要なのです。なぜなら、解決したときの効果の大きさは、どんな課題に取り組んだかで決まるからです。そして、効果の出やすさは課題解決の難しさとは無関係です。例えば、大学入試の改革とどこかのある地方都市の商店街活性化という二つの課題があったとします。社会に与えるインパクトは大学入試の改革のほうが大きいでしょう。かといって、必ずしも大学入試の改革のほうが難易度が高いとは限りません。個人的には、地方都市の商店街の活性化のほうが難しい課題なのではとすら思います。これはAIを使う使わないに限らない話ですが、とても大事なのでテストに出ます。

下の図をご覧ください。

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これは、AI(=機械学習)を使う場合のプロセスごとに効果に対するインパクトをプロットしたイメージ図です。課題設定、データ収集、データクリーニング、モデルづくりと大きく4つのプロセスがありますが、この順番で、効果に対するインパクトが大きいことを示しています。

解決したときにどのくらいの効果が見込めるかは、課題設定の時点でほとんど決まっています。どんなデータを収集するか、どうやってデータをクリーニングするか、どんなアルゴリズムを使ってモデルづくりするかももちろん大事ですが、どんな課題を設定するかのほうが圧倒的に効果の大きさを左右します。トンチンカンな課題に対して完璧なモデルを組んだところで、たいした成果は出ません。したがって、AIで解決すべきビジネス課題を見つける必要があります。たくさん見つけて、その中から効果が出やすい課題に取り組みましょう。

巷でよくありがちな「今持っているデータで何かしたい」という考えでは、大きな効果は見込めません。なぜなら、データありきでは、自由に課題を設定することができないからです。データを持っていなくても、まずは大きい効果の見込める課題を設定するべきです。

なぜAIを使わなければいけないのか

課題を解決するためにAIを使う必要はありません。使わなくても解決するならば、使わないほうがいいでしょう。トイレットペーパーを切るときにハサミを使う必要はないのです。

ではなぜAIを使うのか?

PCの計算が速くなり、RやPythonなどで機械学習をすることが容易になり、また世の中のAIへの期待の高まりから、AIをビジネスに応用することができるようになってきました。できるようになったからやる、というのは素晴らしい動機ではありませんか。人類はそうやって進歩してきました。蒸気を発見しなければ蒸気機関車はできなかったし、インターネットがなければGoogleも生まれなかった。新しい技術が使えるようになるたびに、そこに新しい世界が広がります。せっかくなので、新しい世界に飛び込みましょう。

AIで解決すべきビジネス課題を見つけるための質問

ビジネス課題を見つける重要性は分かった。でもどんな課題がAIで解決できるのか分からない。はて困った。そんな状況を打開する、AIで解決すべきビジネス課題を見つけるための質問がこれです。

「あなたのビジネスでは、人間が何を予測していますか?」

シンプルイズベスト!この質問に答えるだけで、AIで解決すべきビジネス課題が見つかります。なぜなら、AI(=機械学習)とは、予測するためのツールだからです。

機械学習とは、膨大なデータから、予測するためのパターンを自動的に認識することです。我々人間は日々このパターン認識を脳内でしています。例えば、雲行きがあやしくなってきたら、雨が降るんじゃないかと予測します。風が強くなってきたら、さらに雨が降る可能性が高そうですね。人によっては、関節が痛むことで雨の予兆を感じることもあるかもしれません。これはまさしくパターン認識です。いろいろな要因を総合的に加味して、過去の経験からパターンをつかんで未来を予測しているわけです。

人間の予測は、経験や体調によってばらついたり、時間がかかったりします。高精度を保ちながら、一瞬で予測することができるのが、機械学習を導入するメリットです。

意識的に予測しているもの

それでは、ビジネスの中で人間が予測しているものを探しましょう。まずは、意識的に予測しているものから。これは、日々の業務を洗い出せば自ずと見つかるはずです。

販売数、問い合わせ件数、機械の故障・トラブル、マーケティングの効果、などなど。どんなビジネスをしているかによって、予測しなければいけないものは異なります。これらの中には、すでにデータを活用して予測しているものもあれば、熟練者の経験と勘で予測しているものもあるでしょう。これらにAIを使えば、精度とスピードを上げて、今の業務を効率化することができます。

無意識的に予測しているもの

意識的に予測しているものは簡単に見つかりますが、無意識的に予測しているものもあるはずです。これは、日々の業務を洗い出すだけでは見つからないかもしれません。社内の人が何を考えて仕事をしているか、思いを巡らせましょう。

例えば、アパレルショップの店員は、無意識的に購入する見込みの高い顧客を予測しているでしょう。優秀な店員は、顧客の風貌を見てどんな声かけをすれば購入する可能性が高まるかを予測しているかもしれません。

新人の配属先を考える人事は、無意識的に部署と新人の相性を予測しているでしょう。体育会系のノリが強い部署にスポーツ経験のある新人を配属したり、真面目そうな新人を経理部に配属したりしているのではないでしょうか。

アパレルショップの店員も、新人の配属先を考える人事も、確固たるルールをベースに判断しているわけではなく、経験と勘で予測しています。しかしそこには、本人ですら言語化できない、隠されたパターンがあります。このパターンをAIで見つけて予測精度を高めましょう。

予測しても意味がないもの

人が予測するのは、早めに対処したいからです。未来がどうなるか分かっていれば、早めに対処してリスクを避けたりメリットを享受したりできます。行動につながらないものは予測しても仕方ありません。

毎月、来月の損益を予測する人たちがいます。来月は今月よりも良くなりそうだ、悪くなりそうだ、と。良くなりそうだから安心したり、悪くなりそうだから不安になることに、何の意味もありません。良くなりそうだから頑張らなくていいわけでもないですし、悪くなりそうだから頑張らなければいけないわけでもありません。行動に変化をもたらさない予測はやめましょう。

大事なのは、事前の対処です。一時停止をしない車が頻発する場所を予測したパトカーは、一時停止をしなかった車を取り締まるのではなく、事前に対処して事故を未然に防ぎましょう。

効果が出やすいビジネス課題

ここまでで、AIで解決すべきビジネス課題を発見してきました。ビジネスの中で人間が予測していることはたくさんあります。そのすべてを解決したいのはやまやまですが、優先順位をつけることはとても大事です。前述したとおり、どの課題に取り組むかで効果は決まるからです。優先順位をつけるための基準は以下の3つです。

1. 事前に対処したときのメリット/対処しなかったときのリスクが大きいか

当たり前のことですが、早めに対処することで未来が大きく変わる可能性のある課題のほうが、取り組む価値があります。

2. 高頻度で予測しているか

頻度が高いほうが、AIに自動で予測させるメリットが大きいでしょう。自動化した分、人間が予測に使う時間を削減できますし、予測で消耗してしまうこともありません。年に一回しか予測しないものは、お金と時間をかけてAIで予測できるようにしてもペイしなさそうです。

3. 熟練者と素人の予測精度が大きく異なるか

熟練者の予測精度が高いと、機械学習でも高い予測精度を実現できる可能性が高いです。熟練者でも予測できないものを機械学習で予測することは、一般的には難しい場合が多いです。素人の予測精度が低ければ、AIに予測させることで予測精度の底上げで大きい効果が見込めます。

これらの基準を総合的に考慮して、大きな効果が見込める課題に優先的に取り組みましょう。

AIを技術的/理論的に理解する必要はあるか?

ここまで、AI(=機械学習)がなんたるかを技術的/理論的に分かっていなくても課題設定ができる方法をご紹介してきました。データを分析したり、予測モデルを作ったりする人には当然技術的な理解が必要ですが、それ以外の人はAIについて小難しいことをわざわざ勉強しなくてもいいのでしょうか?

結論から言うと、基本的なことは勉強したほうがいいです。

技術的な背景が分かれば、どの課題が解決可能か、どんなデータを収集すればいいか、どのくらい時間がかかるのか、見当がつきます。逆に言えば、これらの見当がつくくらいまで勉強すれば、後は詳しい人にお任せしてもいいのではないでしょうか。大事なのは、大きな効果が見込める課題を見つけることですから。

なんでもかんでもAIで解決したいこのご時勢、ビジネス課題の設定力を高めてAIライフを満喫しましょう。