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米国500社の財務諸表ビッグデータ分析で見えた7つの事実

最近よくビジネスニュースというか経済ニュースを見ていて思うんですが、注意しないと各企業についてバイアスがかかるリスクがあるなぁと。メディアが悪いと言えばなんとなく悪い感じがしてきますし、賢い人がすごいと言えばなんだかすごい気がしてきます。具体的には、Amazonの戦略がすごい!とか、Appleは税金を納めてなくてひどい!とか、そういうニュースを真に受けてしまっている自分に気がつきます。これはよくないですね。事実ではなく、他人の意見に支配されています。

ではどうすればいいのでしょう?メディアを遮断すればいいのでしょうか。それとも、他人の意見を全て否定すればいいのでしょうか。

バイアスを取り除く方法はただ一つ。データ分析です。データは嘘をつきません。賢そうな人の意見を鵜呑みにするのではなく、自分で生のデータを分析すれば、事実にたどり着けます。

企業について知るためには、財務諸表をひも解くのが一番です。そこで、今回は米国企業S&P 500社、1990年から現在までの財務諸表データを分析し、以下の7つの驚くべき事実を発見しました。

1. 企業はどんどん大きくなっている
2. ROEを決めているのはほぼ財務レバレッジ
3. エネルギー業界は未曽有の大不況
4. Colgate-Palmoliveは異常なほど株主を大切にしている
5. Microsoftの投資攻めすぎ
6. Amazonは倒産しかけていたことがある
7. Appleは意外としっかり税金を払っている

ワオ!!これは驚きましたね。驚かせてしまってすいませんでした。

各企業の財務諸表は企業HPからダウンロードできますが、今回はこちら(https://wrds-web.wharton.upenn.edu/wrds/)からまとまったcsvファイルを入手しました。ちなみにこのサービスは、アメリカの大学生のみ利用できるようです。なお、2018年1月31日現時点ではまだ2017年12月決算の財務諸表は発表されていないので、多くの企業で最新のデータは2016年度のものとなります。

コードはいつも通りGithubにおいてあります。

それでは一つ一つ事実を確かめていきましょう。最初の事実はこちら!

1. 企業はどんどん大きくなっている

企業のサイズを測る指標は売上高、利益、資産、従業員数、顧客数、などいくつかありますが、この記事では売上高と純利益を基準にします。

こちらのチャートをご覧ください。なお、本記事中の金額の単位は全て$1000です。

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これは、S&P 500社を売上高、純利益をx, y軸にしてプロットしたもので、左から1990年、2000年、2016年です。見るからに企業のサイズがどんどん大きくなっているのがわかります。これは、規模の経済(スケールメリット)を追い求めた結果でしょう。規模が大きくなることによって単位あたりコストが下がるスケールメリットを追い求めれば、売上高も次第に大きくなっていきます。

せっかくなので、2016年時点で大きな売上を上げている注目企業の推移を見てみましょう。まず、1990年です。

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一番売上高が大きいのはGeneral Motors、次いで、Exxon Mobil、Ford Motor、General Electricの名前が見えます。売上高、純利益共に成績がいいのはExxon Mobilのようです。純利益率でいうとGeneral Electricの方が良さそうですね。

次は2000年を見てみます。

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Exxon Mobil優秀ですね。順調に売上と利益を伸ばしています。1990年と比べると、Citi GroupやBank of Americaなどの銀行が巨大化してきているのも見えます。Microsoft、Intelはまだあまり大きくないですが、巨額の利益を生み出しています。AppleとAmazonはほぼ存在感なしですね。

さて、それでは2016年はどうなっているでしょう。

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Appleの異常な成長!そしてWal-Martの巨大化!Appleは純利益で二番手であるJP Morgan Chaseの二倍弱、Wal-Martは売上高で二番手Berkshire Hathawayの二倍以上を誇っています。Amazonに押され気味の印象が強いWal-Martですが、売上高では未だ圧倒的です。トップ集団だったExxon Mobil、General Motors、Ford Motorは少し目立たなくなりましたが、安定して利益を上げているようです。

こういう各企業のサイズ感はニュースを読むときにも頭に置いておきたいですね。

2. ROEを決めているのはほぼ財務レバレッジ

企業の収益性を測るのに最適な指標は何でしょうか?

収益については、営業利益、経常利益、純利益と色々ありますが、ここでは特別利益/損失や税金も差し引いた最終的に会社に残るお金である純利益を使いましょう。収益性を見るためには、純利益を何かで割ってやる必要があり、以下の3つが考えられます。

純利益率 = 純利益 / 売上高
ROA(Return on Assets) = 純利益 / 資産(Assets)
ROE(Return on Equity) = 純利益 / 自己資本(Equity)

資産とは、現金、在庫、工場など、ざっくり言うと「会社の持ち物の中で価値のあるもの」です。自己資本は、資産から負債(将来支払わなければいけない金額)を引いたもの、つまり「返さなくてもいい会社のお金」です。

自己資本 = 資産 – 負債

自己資本の大部分は、株主からの投資と、自分で稼いだお金です。なお、この記事では会計用語の簡単な説明を入れますが、厳密性は犠牲にしているので、正確に理解したい人は各自ググってください。

純利益率、ROA、ROE、どの指標も収益性を測るのに使えますが、この中でも業績分析にはROEが最適です。なぜなら、ROEを分解すると、その中に純利益率やROAが含まれているからです。

数式で見てみましょう。

ROE = 純利益 / 自己資本
   =(純利益 / 資産) * (資産 / 自己資本)
   = ROA * 財務レバレッジ

なんと、ROEはROAと財務レバレッジ(= 資産 / 自己資本)の掛け算で表現できました。さらにROAを因数分解します。

ROE = (純利益 / 資産) * (資産 / 自己資本)
   = (純利益 / 売上高) * (売上高 / 資産) * (資産 / 自己資本)
   = 純利益率 * 資産回転率 * 財務レバレッジ

ROAは純利益率と資産回転率の掛け算となり、最終的に、ROEは純利益率、資産回転率、財務レバレッジの3つに因数分解することができました。これをデュポン分解と言います。これで、純利益率やROAよりもROEの方がより幅広い視点で見ることができる優秀な指標だということが分かりました。

なお、資産回転率とは、資産をいかに効率よく活用して売上を生み出しているかを示しているので、高い方が良い指標です。財務レバレッジは、資産と自己資本の比率なので、この指標が大きいと、自己資本比率が小さい、つまり負債(借金みたいなもん)が多い状態を示します。負債が多い状態とは、必ずしも悪い訳ではなく、お金を借りて攻めた経営をしていると見ることもできます。

それでは、本題です。純利益率と資産回転率と財務レバレッジのどれが一番重要なのでしょうか?

まずはROEと純利益率の相関関係を見てみましょう。

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北極星かよ。


いや、よく見てください。これは北極星ではなく、異常にROEが高い企業が1社あるようです。なんだか分かりませんが、とりあえず外れ値として排除しておきましょう。これが後に外れ値ではないことが判明しますが、まずは読み進めてください。

一つずつ相関関係を見るのは大変なので、一気にプロットしてしまいます。どん!

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ROEと純利益率、資産回転率、財務レバレッジそれぞれとの相関を見てください。純利益率、資産回転率とも正の相関は示しているものの、財務レバレッジとの相関が圧倒的に強いことが見て取れます。つまり、ROEが高い企業は負債が多い傾向があると言えます。ROEを高めたい社長の方はどんどん借金しましょう。さて、もう一度数式を見てみます。

ROE = (純利益 / 売上高) * (売上高 / 資産) * (資産 / 自己資本)

例えば、ROEを2倍にするためには、純利益を2倍にする方法と自己資本を半分にする方法があります。 純利益を2倍にするのは難しいですが、自己資本を半分にするにはたくさん借金をして自社株買いすればいいのでやる気の問題(?)です。これがROEと財務レバレッジとの相関が強い理由ではないかと思います。

では、ROEが高い企業は借金まみれでヤバイ状態なのでしょうか。必ずしもそうでないことは後に説明します。

3. エネルギー業界は未曽有の大不況

せっかくROEという便利な指標を見つけたので、業界別に収益性を比較してみましょう。儲かりやすい業界と儲かりにくい業界があることは容易に想像できます。

2016年の業界別ROEをボックスプロットしたものがこちら。

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エネルギー(Energy)業界のROEが圧倒的に低いことが分かります。一番高いのは家庭用品(Household & Personal Products)業界でしょうか。少し意外な感じがします。銀行(Banks)とユーティリティー(Utilities)は、ばらつきが少なく、各企業間のROEに差異があまり見られません。共に社会インフラなので、納得の結果です。日本の上場企業の平均ROEが0.08くらいなので、全体的にやはり米国企業のROEは高いことが分かります。

先ほど見たように、ROEを構成するのは純利益率、資産回転率、財務レバレッジです。業界別にこれらの指標を比較してみましょう。

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エネルギー(Energy)業界のROEの悪さは、純利益率由来のようです。一方、家庭用品(Household & Personal Products)業界の財務レバレッジはやばいことになってますね。表示ミスでしょうか?これは後で確認します。資産回転率に関しては、食品リテール(Food, Beverage & Retailing)業界、リテール(Retailing)業界が高いですが、これらは薄利多売ビジネスなので、純利益率が低めであることからも確からしいと判断できます。

ここでは、エネルギー業界を掘り下げます。業界全体の純利益率が悪いのか、それとも一部の企業がとてつもなく悪いのか、見ておく必要があるでしょう。

エネルギー業界の企業別に純利益率、資産回転率、財務レバレッジをプロットしたものがこちら。

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Hess、Newfield Exploration、Concho Resourcesなど、とびきり純利益率が低い企業もありますが、全体的にマイナスなので、これは企業個別の問題ではなく業界の問題だと言えます。この中にあっても、Exxon Mobilはプラスの純利益率と高い資産回転率をキープしており、素晴らしいですね。

次に浮かぶ疑問は、これは2016年だけの問題なのか、それともどんどん悪くなってきているのか、でしょう。1990年から現在までの純利益率の推移をプロットしました。

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2015年と2016年えらいことになってるじゃないですか。


1997年〜1998年も純利益率が大きくマイナスに振れているものの、よく見ると純利益率が急に下がっているのは3社しかありません。一方、2015年〜2016年はほぼ全ての企業が大きく下ブレしています。これはエネルギー業界が未曾有の大不況にみまわれていると言っても過言ではないでしょう。

エネルギー業界の純利益率に大きく影響しそうなものといえば、原油市況です。1990年以降の原油の値動き(http://www.macrotrends.net/1369/crude-oil-price-history-chart)を見ておきます。

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確かに2015年、大きく原油が値下がりしています。2008年のリーマンショック時にも原油は下がっていますが、その直前に鋭いピークがあるからか、エネルギー業界の純利益率にはそこまで大きく影響していないようです。2015年に原油価格が下落しているのは、シェール革命によるものでしょう。シェール革命の影響は想像以上に大きいことが分かります。また、原油価格に純利益率が敏感に反応する企業とそうでない企業があるようです。ここでは分析しませんが、この点は掘り下げると面白そうですね。

4. Colgate-Palmoliveは異常なほど株主を大切にしている

先ほど、業界別にデュポン分解したチャートがありましたが、もう一度見てみましょう。

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家庭用品(Household & Personal Products)業界の財務レバレッジが飛び抜けて高いことが分かります。これは一体全体どういうことなのでしょうか。エネルギー業界と同じく、企業ごとに見てみます。

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これを見ると、おしなべて財務レバレッジが高いわけではなく、Colgate-Palmoliveだけが飛び抜けていて、この企業が平均を引っ張っていたことが分かります。よく見るとKimberly-Clarkもとても高いのですが、ここではColgate-Palmoliveに焦点を絞って内容確認していきます。ちなみにColgate-Palmoliveは日本ではあまり製品を見かけませんが、洗剤や歯磨き粉を製造販売するP&Gのような企業です。

Colgate-PalmoliveのROEはなんと150近い異常値を叩き出しています。これは、先ほど外れ値として排除した北極星です。実は、北極星はColgate-Palmoliveだったのです。財務レバレッジだけでなく、純利益率、資産回転率についても優秀ですね。果たしてこの財務レバレッジは正しい値なのでしょうか。それとも、何かしらの計算ミスでしょうか。

結論から言うと、これはColgate-Palmoliveの圧倒的な株主重視経営によってもたらされた結果です。それを示すグラフがこちらです。

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財務レバレッジは以下のように計算されます。

財務レバレッジ = 資産 / 自己資本

つまり、自己資本が小さくなればなるほど財務レバレッジは高まります。このチャートを見ると、2015年〜2016年、Colgate-Palmoliveの自己資本はほぼゼロに近い状態であり、そのため財務レバレッジが高まっています。それでは、これは借金まみれでやばい状態なのでしょうか。この場合はそうではなさそうです。

自己株式が2000年以降、ほぼ直線的に増えているのが見えます。自己株式とは、自社株買いによって市場に出回っている自社の株式を買い戻した株式のことです。自社株買いをすると、株式のプレミア感が増すので株主たちは喜びます。また、会計処理上、自己株式を取得した分、自己資本が減ります。逆に、自己資本を増やすものもあり、それが利益剰余金です。

改めて、先ほどのチャートを見てみると、2013年まではほぼほぼ自己株式と利益剰余金が同じ額で推移していますが、2013年以降、自己株式に対して利益剰余金が少ない状況が続いています。そのため、自己資本がガクッと下がっているのです。これには、利益剰余金が多少足りなくても株主のために自己株式を取得し続けるColgate-Palmoliveの株主重視経営が見て取れます。さらにそれだけではなく、配当金も増える一方です。株主冥利に尽きますね。冥利に尽きたい方はColgate-Palmoliveの株を買いましょう。

5. Microsoftの投資攻めすぎ

ここ最近はGoogle、Amazon、Facebook、Microsoft、Appleのニュースを見ない日がないほど、これらGAFMAと呼ばれる5社は世間の注目を浴びています。そこで、GAFMAについても財務諸表分析をして、各企業についてより鮮明なイメージを持ってニュースを読めるようにしましょう。

まずはやはりROE分析からです。なお、Googleは親会社のAlphabetとして上場しています。

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Apple強し。この記事の最初に、Appleはダントツで純利益が大きいことを見ましたが、その金額だけでなく、収益率も非常に高いことが見て取れます。AppleとMicrosoftはお互いハードウェアを販売しているだけあってか、財務体質が似ています。AlphabetとFacebookはメインの収入が広告ですが、財務レバレッジが低く、自己資本比率が高いです。Facebookの純利益率が一番高いのは少し意外でした。Amazonはリテールらしく高い資産回転率ですが、純利益率の低さから、ROEは比較的低めとなっています。とはいえ、日本企業の平均よりは随分高いのですが。

さて、ここまでROEばかり見てきましたが、この指標だけで企業のパフォーマンスを測っていいのでしょうか?

ROEには、重要な要素が抜けています。それが、成長率です。収益を上げていなくても、成長率が高ければ株主からは評価されます。ここでは、売上高で成長率を見ましょう。

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5社とも成長率は高いですが、特にAmazonの成長率は一段と高いようです。それにしても2005年以降のAppleの成長率は異常ですね。Steve Jobs、恐ろしい男です。Tim CookがCEOに就任した2011年以降も成長を続けているので、彼も只者ではありません。現時点では売上高の規模で見るとFacebookは他社と比べると小粒感がありますが、AppleやAmazonの過去の推移を見ると、ここからグッと上げてくるかもしれません。Microsoftは堅調に売上を伸ばしてはいますが、やはりApple、Amazon、Alphabetと比べると成長率は低い感じですね。

次は、キャッシュフローを見ていきます。キャッシュフローとは、リアルタイムなお金の流れです。財務諸表では、製品を販売してまだお金を回収していないにも関わらず売上に計上しますが、実際にお金が入ってくるまでにはタイムラグがあります。キャッシュフローを確認することで、よりリアルタイムに企業がどのようにお金を調達し、事業で稼ぎ、投資に使っているかを見ることができます。

お金を調達してくる流れが財務キャッシュフロー、事業で稼いでくる流れが営業キャッシュフロー、投資に使う流れが投資キャッシュフローです。営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの合算をフリーキャッシュフローといい、これがプラスであれば投資している以上に稼いでいる健常な状態、これがマイナスであれば稼ぐ以上に投資しているアグレッシブな状態だと判断できます。

それではこれをご覧ください。どん!

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金額の大小はあれど、各社、営業キャッシュフローはプラスで伸びてきており、投資額も増やしています。注目すべきは、Microsoftの2017年、フリーキャッシュフローが2000年以降初めてマイナスに転じています。ここまで安定して収益を上げている会社が、銀行に借金してまで投資額を増やしているのです。これは捨身とも言えるほどの攻めの経営ではありませんか。そしてこの投資内容というのが、LinkedInの買収(262億ドル)です。この買収がうまくいくかどうかの分析は他の方に任せますが、このキャッシュフローチャートから、Microsoftのただならぬ決意を感じます。今後のMicrosoftの動向には目が離せません。

6. Amazonは倒産しかけていたことがある

今やイケイケドンドンのAmazonですが、過去、倒産しかけていたことがあるのはご存知でしょうか?

その前に、どれだけイケイケドンドンなのかを示すチャートがこちらです。

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これは、研究開発費と研究開発費/売上高をプロットしたものです。Amazonは研究開発費の額でトップにつけています。研究開発費は未来への投資なので、今後も新しいサービスやプロダクトを生み出していくことでしょう。

そんなAmazonが倒産しかけていたのは2001年のこと。下のチャートが自己資本比率の推移です。

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自己資本比率とは、財務レバレッジの逆数で、自己資本を資産で割って求める指標です。

自己資本比率 = 自己資本 / 資産

この指標が1であれば、無借金経営となります。AlphabetとFacebookはかなり自己資本比率が高めですが、Apple、Microsoftは近年自己資本比率を低めてROEを上げようとしているように見えます。

その中にあって、Amazonは波乱万丈な推移をたどっています。2000年〜2004年、自己資本比率はマイナスに転落し、債務超過の状態となっています。

2001年のAnnual Reportを見てみると、こんなことが書いてあります。

“We have incurred significant losses since we began doing business. As of December 31, 2000, we had an accumulated deficit of $2.3 billion and our stockholders’ equity was a deficit of $967 million. While we generated pro forma operating segment profit in our U.S. Books, Music and DVD/video segment for the full year 2000 and have projected pro forma operating profit for the Company as a whole for the fourth quarter of 2001, we are incurring substantial operating losses and may continue to incur such losses for the foreseeable future. Our historical company-wide revenue growth rates are not sustainable and our percentage growth rate will decrease in the future.”

要するに、「赤字は積み重なってるし、これからも損益が出そうや。。おまけに成長率まで下がってきてるしほんまきついわ」と相当ネガティブな文言です。

さらに、こんなことまで書かれてあります。

“We may not be able to meet our debt service obligations. If we are unable to generate sufficient cash flow or obtain funds for required payments, or if we fail to comply with other covenants in our indebtedness, we will be in default.”

あかん、、借金返せへんかもしれん。もし返せへんかったら倒産や。。」という内容です。Jeff Bezosが世界一の金持ちとなった今では想像もつきませんが、当時は相当資金繰りに苦労していた様子が分かります。

7. Appleは意外としっかり税金を払っている

Appleといえばこれまでも出てきた通り、収益性に関しては文句なしの超優良企業です。ところが、そんなAppleも批判されることがあります。それは税金逃れ。アメリカは法人税が35%と高く、その税金を逃れるために海外での利益をアメリカに移転せず、アイルランドのような法人税が安い国で保有しておく、というものです。

この税金逃れについては賛否両論ありますが、そもそもAppleの税金逃れはそんなにひどいものなんでしょうか?

2016年、各企業の支払金利前税引前利益(EBIT)と法人所得税をプロットしてみました。法人税は支払金利前税引前利益にかかるので、営業利益や純利益ではなく、これをx軸としています。

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Appleは一番儲けている企業でもあり、一番税金を納めている企業でもあります。この青い直線はぴったり35%の法人税を払った場合を表していますが、軒並み実効税率(= 法人取得税 / 支払金利前税引前利益)は35%以下となっています。このチャートを見ると、Appleだけがひどい税金逃れをしているとは言えなさそうです。

もう少し掘り下げて、繰延税金資産・負債を見てみます。繰延税金資産とは、何らかの理由で、支払わなくてもいい税金を先に支払ったために、将来の税金が免除される金額のことです。逆に、繰延税金負債とは、何らかの理由で、支払わなければならない税金を先送りにしたために、将来余分に課される金額です。

今回見たいのは、繰延税金負債です。なぜなら、海外で得た利益をアメリカに持ち帰らずに保有する場合、本来支払わなければならない税金を先送りにしたとみなされ、繰延税金負債が積み重なります。したがって、いわゆる税金逃れをすればするほど大きな繰延税金負債を抱えるということです。

それでは見てみましょう。Y軸がマイナスだと繰延税金負債、プラスだと繰延税金資産の金額を表しています。

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Berkshire Hathaway!!世界一の投資家との呼び声も高いWarren Buffett率いる投資会社です。おっさん、たんまり溜め込んどるやないですか。一方、Appleも確かにかなりの金額の繰延税金負債を抱えてはいますが、稼いでいる利益を考えると、Appleばかり責められるのはフェアではない感じが個人的にはします。

なお、トランプ政権が法人税を35%から20%に引き下げようとしていますが、その時に一番ウハウハなのはBerkshire Hathawayでしょう。

まとめ

今回は混みいった統計学や機械学習の手法は使いませんでしたが、興味深い事実を発見することができたのではないかと思います。データの質が良ければ、グラフにするだけで多くの示唆が得られます。冒頭に書いた通り、企業のパフォーマンスや評判についてはバイアスがかかりやすいので、改めてこのようにデータで見ることができ、今後はより客観的な視点で情報と向き合うことができそうです。それではまた次回の記事まで、ごきげんよう。